研究最前線レポート:粉砕したサンソウニン(ZSS)が神経変性疾患の予防と脳の若返りにもたらす可能性
1. はじめに:なぜ「サンソウニン(ZSS)」に注目したのか?
アルツハイマー病などの神経変性疾患は、年を重ねるほどかかりやすくなる病気で、脳内に異常なタンパク質のゴミがたまることで起こります。例えば、アルツハイマー病ではアミロイドベータ(Aベータ)やタウ、パーキンソン病ではアルファシヌクレインというタンパク質が、毒性のある塊(オリゴマー)となり、神経細胞を傷つけます。
この「タンパク質のゴミ」の蓄積は、症状が出る数十年も前から始まっているため、予防が極めて重要です。
理想的な予防法には、以下の3つの働きが求められます:
- 毒性のタンパク質のゴミを取り除く。
- 傷ついた神経細胞を修復する。
- 細胞の老化(セネッセンス)を抑える。
しかし、現在主流の治療薬は高価で副作用もあり、長期的な予防には向きません。そこで私たちは、安全で安価、かつ手軽に摂取できる素材、特に漢方薬の原料に注目しました。
本研究で選んだのは、古くから不眠や健忘に用いられてきた薬草、サンソウニン(Zizyphi spinosi semen、ZSS)です。サンソウニンは日本では食品(非医薬品)としても扱われており、長期的な摂取に適していると考えました。
2. 研究アプローチ:抽出物と「まるごと粉砕」の比較
漢方薬の伝統的な製法である熱水抽出(煎じ薬のように煮出す方法)では、揮発性成分の消失や熱に弱い成分の分解が起こり、すべての有効成分を回収できない可能性があります。そのため、抽出せずにまるごと粉砕する方が効果を最大化できるという仮説に基づいて研究を進めました。
そこで、乾燥したサンソウニンから次の3種類の調製物を作り、効果を比較しました:
- 熱水抽出物(Ext-ZSS):従来の煎じ薬に近いもの。
- 抽出残渣(Res-ZSS):熱水抽出後に残ったカス。
- 非抽出単純粉砕末(Pwd-ZSS):「まるごと粉砕」したもの。
3. アルツハイマー病(AD)モデルマウスへの効果検証
まず、アルツハイマー病の症状を持つマウス(APP23マウス)に、熱水抽出物(Ext-ZSS)を1ヶ月間、口から与えて効果を調べました。
🧠 記憶力の改善
マウスの記憶力を見るモリス水迷路試験では、Ext-ZSSの投与により記憶力に改善が見られました。
特に、用量を増やした(0.5 mg/shot)場合では、記憶力が病気のない同月齢のマウス(Non-Tg)と同レベルにまで完全に回復しました。

🔬 毒性タンパク質の減少とシナプスの回復
投与後のマウスの脳を調べたところ、Ext-ZSSは脳の大脳皮質(CC)や海馬(HC)といった記憶を司る領域で、毒性のあるアミロイドベータの塊やアミロイド斑といったタンパク質のゴミのレベルを有意に減少させました。
さらに、神経細胞同士の接合部(シナプス)の機能を示すシナプトフィジンのレベルも、病気のないマウスと同じレベルにまで有意に回復していました。これは、タンパク質のゴミを減らすだけでなく、傷ついた神経ネットワークを修復する働きがあることを示しています。

